Friday, October 19, 2001

3G携帯電話

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以下の文、オリジナルは97年の12月です。ある会社へのコンサルティン
グをやっている頃に思っていたことです。「正論」にも2000年の初め頃
に書いたことがあるけど、ウィルスによるサーバークラッシュで消えて
しまった(googleのキャッシュでも救えなかった)ので最新の状況を踏
まえて加筆の上、再掲します。
予想以上にと反響があった内容だったし、さらに、最近になってようや
く普通の人も実体験として理解できる状況になってきたので、良いタイ
ミングかと。
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何やら、雲行きが怪しくなってきた第3世代(3G)携帯電話。怪しくなった
理由は大きくわけて3つだと思う。「技術先行の実験的体質」と「顧客軽
視」、そして「電話の本質を無視」。

1.技術先行の実験的体質
メールや通話なら今のデバイスで必要十分だ。これは現行の携帯利用者で
あればわかっていると思う。なのに、3Gが宣伝している機能の多くは、必
要性に首を傾げるものばかりに思える。
テレビ電話としての機能を持つデバイスが「ビジュアルタイプ」と称され
て発売された。数千台は出荷されたようだけど、あくまで出荷で販売台数
はどれほどかな。そもそも、誰が携帯電話の小さな表示部で映像を見たが
るのかがわからない。おそらくリードユーザーは風俗関係者であることは
容易に想像できる。あの業界は低品質でも映像が命だから。そもそもテレ
ビ電話は既存の固定電話でも実現できている。端末が高い、帯域が狭い等
の理由もあるけど、普及しない最大の理由は、人々が求めなかったからで
はなかったかな?
ビデオ・オン・デマンドなんてかつての死語が復活してきているけど、そ
んなにビデオ見たいのか?通信料払って、あの小さい画面で。レンタルビ
デオ借りて、家で見てればいいのでは?そもそも「やっぱり映画は大画面
の方が迫力があっていい」という理由で、当初の予想に反し、映画館はビ
デオに駆逐されることなく残っている。
次に財布としての機能。携帯電話を操作して缶ジュースが買えるからなん
だっていうのか。僕なら財布から120円取り出して買うね。小銭がなければ
お札で買うよ。お金がないときは買えないじゃないかだって?そこまで貧
乏じゃないでしょ、携帯電話持ってる人なら。
携帯電話で切符がわり。アイデアとしては良いと思う。けど、残高照会や
決済のために携帯電話から金融機関にデータを送るわけだよね、じゃぁ、
地下鉄はダメだね。圏外だから。
財布を持ち歩く必要がなくなるという主張にも説得力がない。そんなこと
あるはずないと思うんだけど、世の中が貨幣経済で成り立っている限り。
地域通貨に移行するって言うなら話は別だけどね。
死語だけど、マルチメディアってのは、メディアが増えることであって、
一つで何でもってことではないのだ。
ただ一社だけが先行して、しかも世界の同意を得られなかったW-CDMAなん
ていう独自規格にこだわっている状況も不安。ノキア、エリクソンモトロ
ーラが端末事業から基地局事業に移行して、J-PHONE、オレンジ、ボーダー
フォン、KDDIが3Gを延期しているのには理由があるのに。

2.顧客軽視
個人的には、これが一番の問題だと思っている。そもそも、3G電話を先行
投入している通信会社Nの通話料金は高い。試算してみると、他の通信業者
KとかJに比べて月額で3000円~4000円程度高い。もう少しわかりやすく書
くと、Nは月額請求額が12,000程度、KとかJは8000円。あ、そうかもって
思うありがちな数字でしょ?友達に聞いてみてよ。
で、3Gで通信速度が384kに「上がる」ようだけど、それもどうかなぁ。
遅すぎる。しかも月額1万円以上のコストを課金した上ででしょ。ADSLの
普及で家庭でもLANなみの数メガバイトの帯域が「あたりまえ」になのに、
しかも月額2000円から3000円で。
通信速度をあげたにもかかわらず、いまだにパケット課金制というのは
ボッタクリに近い。通信速度が速くなれば、同量のデータを短時間で送
れる。逆に考えると、通信時間が減るのに料金は同じということだ。しか
も最近は画像のようないわゆるリッチコンテンツが多く、パケット量は
数百倍に増している。儲かるはずだ。
音声通話は発信者が料金負担なのに、メールは送受信両者負担ってのも
おかしい。使っている設備は同じなのに。というか、間にインターネット
を介すなら安くなってしかるべきなのに。
こういった顧客軽視の姿勢に加え、物言わぬ消費者側の責任も大きい。
「電話番号を変えたくない」だけの理由で、月に何千円も余計に払い続
けている人が多いことには驚く。「しょうがない」と諦めている。決して
消費者はかしこくなっていない。

3.電話の本質を無視
3Gとかいって上辺の化粧直しをするだけでなく、途切れない通話、高品質
な音声、世界中どこでも使えるといった電話しての機能を満たす方が先で
はないだろうか。日本で買った携帯電話、なんで海外で使えないんだろう。
他の国や地域では当たり前の用に実現されていることなのに。
携帯電話はあくまで「電話」なんだけどな。

新しい技術が出始めると、実験的な面だけが強調される向きは理解できる。
実験と検証の繰り返しは必須だ。けど、このままでは3Gは、かつてのハイ
ビジョンテレビ、最近のISDNと同じ結果になるんじゃないかな。初期投資や
設備の償却がおわらないうちにすたれていく構図。

デバイスとかサービスだけでなく、もっと社会的なことにも目を向けても
らいたい。購入時の初期設定でマナーモード、もしくは小さめの着信音量
になっているとか、ちょっとした気配りが欲しい。

ただ、日本の消費者があまり賢くないこと。これが3Gにとって唯一の救い
かも。実は、ここに書いたことはMBAの授業中にも議論で何度か言ったこ
とがあるけど、理解できている人ってあんまりいないように思う。MBAで
すらそうだから、いわんやってことかな。
だいたい、通信審議会とかに出席したことがある教授ですら、1997年にJと
Kが携帯からのネットアクセスを実現していたのに、「それって本当?」
と聞く始末だからね。

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